フランス在住の日本人がおこなう営利活動に関して
フランス在住の方々が、「フランスからダイレクトにお届け」を謳い文句に、各種オークションサイトを利用したり、ネットショップを開いたりして、「物品の販売」を行なわれているケースが多々あります。
また、同様の手法にて「サービスの有償提供」(観光ガイド・通訳・翻訳・買付け代行・賃貸アパート仲介・料理教室など)を行われる方もいらっしゃいます。
しかし、それらの多くが違法なものであるのが現状です。ここでは、その違法性についてのご説明をしたいと思います。
フランスの制度を知る者として、フランスで合法的に商売をしながら苦労している友人たちの事情を知る者として、情報の提供と注意の喚起を行う義務があるように思った次第です。
同時に、無関係な人たちに及ぶリスクの周知も兼ねています。フランスで「正規営業」していない人に対して「コラムの執筆」「買い物代行」「翻訳」等のサービスを有償で継続的に依頼した場合、その依頼者(フランス国内及び国外の個人や法人)までもが、「フランス法が定める雇用主責任(申告責任・社保費用負担)を果たしていない」「不法労働への加担行為だ(=共犯)」と、フランス当局から判断されて訴追されることもあるわけです・・・・・・
* 日本在住の方が、フランスに2週間滞在して商品の買付けをしたり、ツアーに同行して現地の観光案内をしたりするようなケースは、本稿とは関係ありません。
どの国での「営利活動」なのか?
「物品の販売」や「サービスの有償提供」などの営利目的行為は、その該当国の法律・規制に従わなくてはならないのが原則です。
そこで、フランス在住の日本人が「フランスからダイレクトに雑貨をお届け」したり、「買付け代行」したり、「在宅翻訳サービスを提供」したり、「現地で通訳サービスを提供」する場合等について、それらの営利目的行為が発生している場所(国)が、日本なのか、フランスなのか、という点を検証してみましょう。
例えば、ある日本人の観光客がパリで土産物を購入したとしましょう。
その土産物を販売していたのが実店舗であっても、路上で不法営業をしているビザも持たない外国人であっても、これは「フランスにおける営利活動」になります。また、この日本人観光客がその品を手荷物で持ち帰ったとしても、別送品で日本へ宅配しても同じことです。販売者自身が日本へ郵送の手配をしても、「フランスにおける営利活動」ということになります。店頭販売でも通信販売(ネット販売を含む)でも、商品の配達先に何の意味合いもありません。
この考え方が、物品の販売だけではなく、買付け代行・通訳・観光ガイド・HP作成代行・翻訳・料理教室などのサービスにも当てはまることは、言うまでもありません。
フランスにおける「営利活動」について
上記のようなフランスにおける営利活動は、フランスの法律に従って行われなければなりません。
「売り手も買い手も日本人だ」「日本に住所(戸籍・住民票)がある」「日本の法人だ」「入金口座が日本にある」「日本のサーバーにHPがある」「日本のオークションサイトで販売している」「日本の古物商免許を持っている」「日本の税務署に申告している」という理由で、フランス法の適用外だと考えるのは、それこそ「場違い」です。
ところで、「営利活動」とは、物品販売の場合ですと、「販売する目的で購入した物品の販売(=転売)」を指します。ブランド品やコレクションアイテムの「転売」は、営利目的行為になります。これに対し、自分がもともと所有していたオブジェや、自分や家族が着用していた衣類などをフリーマーケットやネットオークションで売るのは「非営利目的行為」になります(ちなみにフランスでは、フリーマーケットへの参加は「地元近辺で年2回まで」と定められています。また、長年コレクションしてきた物品(=転売目的で購入していない物品)を処分する場合でも、ある程度の売上がある場合には、「営利活動」と見なされます)。
「サービスの有償提供」は、物品ではなく「サービス」を提供して対価を得ることを指します。
上記のような「営利活動」ですが、フランスでは、「登記を済ませた法人」もしくは「登記(登録)を済ませた個人」にしか認められていません。それ以外は違法、「もぐり営業」です。そして、フランスでの「もぐり営業」は日本人が想像できないほど悪い「犯罪」なのです。
「もぐり営業」が、消費税・法人税・所得税等の脱税行為でありことは言うまでもありませんが、更に、日本とフランスの、全く異なった税制・社会保障制度(この2つは全く別物です)について詳しく知る必要があります。
日本では、無職といえども国民健康保険税・国民年金保険料の負担が原則です。アルバイトでも内職でもやって払うべきものを払いなさい、というコンセプトに基づく制度です(一応は免除制度もありますが)。
これに対してフランスでは、無職であれば社会保障負担金がゼロになるばかりか、失業手当や生活保護などの「受給者」となります。その代わりに「仕事があれば」、一転して「納付者」となります。そして「仕事があれば」というのがクセモノで、これは必ずしも「収入がある」という意味ではありません。「仕事を始めれば、赤字でも容赦無く負担金の請求が来る」ということです!そして、その額も大変です!売上が月に2万円しかなくても、ゼロでも、赤字でも、法定最低賃金相当の利益があるとみなして算出された社会保障費・失業保険料・年金保険料の納入義務が発生するのですから、一大事です!フランスはこういうルールがある国です。「もぐり営業」はフランス国家・フランス社会制度を根本から揺るがす行為であると言っても過言ではありません・・・
合法的に営業するためには、「登記」が必要です(滞在許可証・労働許可証を持っているだけでは営業できません)。法人もしくは個人事業主等として商業裁判所等に登記申請し、RCSナンバー等を取得し、「受給者」から「納付者」になって初めて、営利活動が許可されることになります。当然、ネット販売等ではRCSナンバー等の記載が必須です。日本の「特定商取引法に基づく表記」を掲載して済む問題ではありません。
フランスで収入を得るには、「サラリーマン(派遣社員も含む)になる」もしくは「法人もしくは個人として登記して営利活動を行う」しかありません(家賃・利息・家族手当・株などの収入は例外です)。前者の場合、雇用主や派遣元が発行する給与明細書を介して対価の支払を受けます。後者の場合であれば、自らが発行する請求書(FACTURE)を介して対価の支払いを受けることになります。それ以外の支払い形態は存在しません。
余談ですが、フランスには「アルバイト・パート」がありません。パン屋で3時間だけ仕事をするにも「短期で有期限の正社員」です。社会保障費・失業保険料・年金保険料の納付義務が発生しない労働形態は存在しないのです。
もう一つの余談ですが、「フランスの税務署に申告しているから大丈夫だろう」という考えは間違っています。日本でも、「麻薬を売って得た利益を税務署に申告しているが、何も言われていない」ということを以って、「麻薬の販売行為が合法とみなされた」と理解することは出来ません。そして、「売上については日本で税金を払っているから大丈夫」云々という意見もありますが、フランスで得た収入に対する税金はフランスで払うのが当たり前です。また、「税金を払う」云々の前に、「その売上は合法的に得たものか」ということから考えなければなりません(例えば、フランス国内で合法的に支払われた給料であれば、租税条約に従って納税方法を選択するということも可能になってくるでしょう)。また、「今まで無届けで営業をしてきたが、どの公共機関にも違法性を指摘されなかった」ということを以って、「無届け営業を認可された」と判断するのも困りものです。従うべきは法律であり、法に違反すれば罰せられるだけです。
さらにもう一つの余談ですが、「集客のための宣伝等をとりあえず開始して、売上が発生した時点で登記をする」という論理も、的外れです。「営業行為」は、利益を得る目的で活動を始めた時点で既に開始しています。実際にお金が入ってきたかどうかは、関係ありません。路上で許可なく土産物を売ろうとする行為は、それ自体が違法です。「まだ何も売れていない、売上ゼロ」であっても、捕まります。「趣味でやっていて、営利目的ではない」という弁解も通じません。あと、「手続き中」というのも変です。K-BISが届くのに数日かかることはありますが、登記申請した時点でSiret番号ぐらいはくれるでしょう(県によって対応が違うかもしれません)。
さて、事業が登記されれば、フランスの商法に従って決算・会計処理を行い、フランスの税法に従って納税を行い、フランスの民法・社会保障法に従って社保・年金・失業保障負担金を支払い、フランスの労働法に従って雇用を行い、その他諸々の法令・規則をふまえて活動し、違反があればフランスの該当法の罰則・刑法に従い処罰を受ける、ということになります。
そして、同じ土俵に上がらずにコソコソと不当な利益を得るということは、フランスで合法的に営業されている方々に対して失礼な行為です。
また、ひょっこり渡仏した日本人学生が、(保険料を一切払うこともなく)フランス政府から住宅手当(アロカ)支給や健康保険適用などの恩恵を受けられるのは、払うべき人たちがキチッと払っているからだ、ということも考えたいものです。
日本人は「正直」「真面目」と評価されています。一部の人々の違法行為によってその評価が下がってしまうのは、残念なことではないでしょうか。また、何も知らずにサービスを依頼した人が、不法労働の共犯とみなされて処罰される可能性すらあるわけですから、困ったものです(補足説明)。
在仏日本人の方々へ : 合法的な営業のために/
フランス正規滞在中の方:
滞在許可証を持っているだけでは営業できません。滞在許可証やURSSAF番号をお持ちの方でも、定職に就いている方(給与取得者)であっても、登記は必要となります。許可証の種類によっても就労条件は変わってきます。詳しくは、職種に応じて「Chambre
de commerce(activité commerciale)」「Chambre
de métiers(activité artisanale)」「URSSAF(profession
libérale)」まで。登記の際に必要な書類が何かを知るだけでも、法や制度の概要が理解できます。
旅行者の身分(観光ビザ)でフランス入国されている方:
法人の代表となるには「滞在許可証 Carte de
séjour」もしくは「商業カード Carte
de commerçant」が必要です。
個人事業主としての登記には原則として「滞在許可証」が必要となります。
即ち、旅行者の身分では、一切の「金儲け」が認められていないということです。
「観光ビザしか持ってないからフランスの法律の適用外」だと思うのは、怖い勘違いです。無免許運転(労働許可なし)だから信号無視(違法営業)しても構わない、という考え方では困ります。
賃貸アパート住まいの方:
個人事業であっても「事業所在地」が必要になりますが、一般的な賃貸アパート(Bail
d'habitationに基づく物件)は「住居専門」です。すなわち、いかなる営利活動も許可されていません。大家さんは「強制退去」させる権利を有しています。営業行為を行うには、大家さんの「Autorisation」が必要になります(登記の際の必須書類になります)。
特殊業務:
「医療行為」や「弁護士業務」など、認可制の仕事もあります。
「知らなかった」では済まされません。Nul ne
peut ignorer la loi !
軽い気持ちの小遣い稼ぎから、「違法営業」「脱税」「不法就労」「不法滞在」で罰せらないように気を付けて欲しいものです。
労働法違反は、「3年以下の禁固+35000ユーロ以下の罰金」で、犯罪記録簿第2号に記載されます。また、同居人や周囲の方にも迷惑が掛かることがあります(労働法違反を知りつつ放置しておけば、共犯者扱いされることもあります。共犯者も、禁固+罰金+犯罪記録簿第2号記載)です。犯罪記録簿第2号に記載されると、ビザや滞在許可証の発行や更新に支障も出ますし、国外退去や入国拒否の処分を受ける可能性もあります。
*本ページの筆者の目的は、情報提供です。「もぐり営業者を知っている、然るところに通報して欲しい」というご相談は、お引き受けしておりません(通報や密告を否定しているわけではありません。談合・耐震偽造・ひき逃げ・児童虐待のケースのように、告発がなければ解決・自浄されない事は沢山あります。また、正規営業されている方が「もぐり」を密告されるのは、至極当然だと思っています。行列に割り込む人を見て腹を立てるのは人情です。金銭的な損失を受けなくても、順番を守らない人に対しては誰でも腹を立てるわけですから、実害を及ぼす「もぐり」に腹を立てる正規営業者を非難することは出来ません)。
*情報提供は、もぐり営業者が居住している県の「DIRECTION
DEPARTEMENTALE DU TRAVAIL / INSPECTION DU
TRAVAIL」まで。
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